#ostd2019 参加メモ

ふた言でいうと

一言でいうと、エモくて良かった!開催翌日、翌々日まで余韻を残し、心に何か刺さるもの、奮わすところのあるイベントだった。

私はタイポグラフィを扱う専門ではなく(ど素人)、インストラクショナルデザインを生業とする職業がら、なにより登壇者の「伝える力」に感銘を受けた。

当日その場で語りかける物腰は、皆さん柔らかくて自然体で、がちがちしていない話しぶり。あぁ、今この場で、脳内で生成された、生きた言葉でしゃべっているんだなって感じがあって、すごく聞き心地がよく、自分の中に入ってきた。

一方で、登壇スライドから窺うに、すごく丁寧に準備して臨んでくださったのだろうなぁとも拝察。「人に見せる」「人に伝える」ための対象物に誠実に向き合う、一貫した「作り手の態度」のようなものを勝手に感じ取って感服した。

「イントロダクション」の妙

主催&登壇者のカワセタケヒロさんが、冒頭に「イントロダクション」と題して、タイポグラフィの基礎知識をわかりやすく解説くださった。この途中で、私は感嘆MAXに。

さまざまな人の表情を映した写真に、それに合ったフォントを選んで「HUMAN」という文字をのせたスライドを数十点、テンポ良く見せていく。

文字にも表情があること、フォントも人間と同じように多様な表情をもち、ゆえにたくさんのフォントが存在すること、たくさんのフォントから最適なものを選ぶ行為には価値があることを、ど素人の私にも体験的かつ超短時間に納得させてしまう手腕が見事だった。

「イントロダクション」の妙、の詳説


以下は、私がおおっ!と感嘆したところを具体的にメモしたもの。タイポグラフィ的なデザインの意味からは逸れるのだけど…、インストラクショナルデザイン的な意味合いからすると、マニアックながら、この部分に心ふるわすポイントが詰まっていた。

※ちなみに実際には、もっと素敵な、力のある写真&たぶん選び抜かれたフォントが使われていたのだけど、ここでは単純化して、簡単な顔の画像と、手元にあるフォントで表してしまっており、フォントと絵のマッチングも適当極まりないのはお察しの通り。

まず、ある女性の顔写真が、「どん!」とスライド全面に映し出される(1)。実際は風景があり、体も肩まで映っている…。
次に、「HUMAN」という白抜きの文字が、その顔の上に乗っかる形で表示される(2)。

この女性、この表情、この風景がまとう雰囲気からして、この「HUMAN」ではちょっと大胆すぎて、そぐわないなって、私のような素人でも違和感を覚えるフォントが、あえて使われている。

んー、2じゃないとしたら、3?4?と、同じ写真のまま、「HUMAN」のフォントを変えたスライドが映し出される(3-4)。

「あぁ、さっきのより、こっちのほうが合う感じ」と、素人目にもいくらかは目利きができるという感覚を刺激してくる。

これによって、タイポグラフィ素人にも、あぁ、フォントって、たくさんあるのには理由がある、フォントを選ぶのには必然性があるんだなってことを、無理なく自然に納得させていく。

門外漢の私も、この4枚をたどる解説によって、「人間の表情と同じくらい雄弁に、フォントも多様な表情をもって印象を伝える」ということが、すっかり腑に落ちていた。見事な手さばきだった。

さて、この4枚は、少しゆっくりスライドをめくっていくのだけど、ここからアップテンポに入る。

この一連の解説で終わらせず、また全然違う印象の、眼光鋭い女性の顔写真をスクリーンに映し出して、同じように3つの異なるフォントをあてがって、フォントと写真のフィット具合の検証を、見る側に体験させる(5-8)。
さらに今度は、もっといろんな人を次々に登場させて、顔写真にフィットするフォントを1つ選んで組み合わせたスライドを展開、テンポよく次々に見せていく。文字は固定の「HUMAN」で、フォントと写真が入れ替わる(9-11)。
さらにテンポをあげて、1スライドを2分割、4分割、9分割、12分割してたくさんの事例を浴びせていき、それぞればらばらな人間の表情にフィットするフォントをあてていく様を提示する(12-17)。フォントの個性、グラフィックとのフィット感や不一致感があることを、圧倒的な量で確信させる。

そう、ここまでやらなくても了解させることはできるのだけど、ここまでやることで確信させる、みたいな丁寧な仕事に感嘆したのだった。
これはカワセタケヒロさんの「イントロダクション」の話の中のごく一部で、この17枚のスライドに費やした時間は「数分」に過ぎない。けれど、この中には、写真とフォントの組み合わせが40点も詰まっている。こうした丁寧な下ごしらえがあり、この下ごしらえも豊富な知見が土台となってこそ成しえているという構造に、胸がつまる。

息を整えて

日頃、教え方や学び方や伝え方のデザインについて云々考えている自分の立場や関心事からすると、この「イントロダクション」から、かなり刺激的なイベントだった。