形式的冪級数におけるlogについての思考

導入

可換環RRは有理数体QQを部分体として含むものとします。
形式的冪級数
exp(x)=i=0xii!R[[x]]exp(x)=\sum_{i=0}^{\infty}\frac{x^i}{i!} \in R[[x]]
を考えます。
f(x)=i=0aixiR[[x]]f(x)=\sum_{i=0}^{\infty}a_ix^i \in R[[x]]が任意に与えられたとき、f(x)=exp(g(x))f(x)=exp(g(x))を満たすg(x)R[[x]]0g(x) \in R[[x]]_0について考えます。このようなg(x)g(x)が存在するのは、f(x)f(x)がどんな条件を満たすときでしょうか?また、存在する場合に、一意に定まるでしょうか?

観察

f(x)=exp(g(x))f(x)=exp(g(x))の両辺の定数項を見ると、
[x0]f(x)=1[x^0]f(x)=1
が分かる。以降、[x0]f=1[x^0]f=1を仮定する。

f=exp(g)f=exp(g)の両辺を微分してやると、
f=exp(g)f=exp(g)
f=exp(g)g=fg\Rightarrow f'=exp(g)*g'=f*g'
が分かる。また、[x0]f=1[x^0]f=1よりfR[[x]]f \in R[[x]]^{*}だから、乗法逆元f1f^{-1}が存在して、
f=fgg=ff1f'=f*g' \Leftrightarrow g'=f'*f^{-1}
が分かる。最後に、g[x0]=0g[x^0]=0に注意すると、ddxg=g\int \frac{d}{dx}g = gであるから、
g=ff1g=(ff1)g'=f'*f^{-1} \Leftrightarrow g=\int (f'*f^{-1})

以上より、f=exp(g)g=(ff1)f=exp(g) \Rightarrow g=\int (f'*f^{-1})が分かった。
(解が存在すれば一意だということ)


定義

以上の観察より、写像loglogを導入する。
定数項が11であるような形式的冪級数全体の集合をR[[x]]1R[[x]]_1とおく。

log:R[[x]]1f(ff1)R[[x]]0log:R[[x]]_1 \ni f \to \int (f'*f^{-1}) \in R[[x]]_0
この写像が、全単射であることを言う。

単射性:

f,gR[[x]]1f,g \in R[[x]]_1が、log(f)=log(g)log(f)=log(g)を満たすとする。
このとき、定義より
(ff1)=(gg1)\int (f'*f^{-1})=\int(g'*g^{-1})
である。両辺を微分して整理すると、
ff1gg1=0fggf=0ddx(fg)=0f'*f^{-1}-g'*g^{-1}=0 \Leftrightarrow f'g-g'f=0 \Leftrightarrow \frac{d}{dx}(\frac{f}{g})=0
となるが、f,gf,gの定数項が11であることと合わせると、
f=gf=gが従う。

全射性:

gR[[x]]0g \in R[[x]]_0に対して、f=exp(g)f=exp(g)と置くと、f=ddxexp(g)=gexp(g)f'=\frac{d}{dx}exp(g)=g'exp(g)より、
log(f)=(ff1)=(gexp(g)exp(g)1)=g=glog(f)=\int(f'*f^{-1})=\int(g'*exp(g)*exp(g)^{-1})=\int g' =g
となる。


以上より写像loglogが全単射だとわかった。
ここで、exp(x)exp(x)に代入する、という操作を写像だと思ってみる:
exp:R[[x]]0gexp(g)R[[x]]1exp:R[[x]]_0 \ni g \to exp(g) \in R[[x]]_1