2020年にAppleは「Design for the iPadOS pointer」で,マウスやトラックパッドに連動した「矢印」のポインタとタッチ型インターフェイスの指とを融合させたポインタを提案した.その結果, iPadOSのポインタは「円形」となり,あらたに実装された「適応精度」によって自在に形を変えつつ,「磁性」によって画面上のオブジェクトに吸着するようになった.「適応精度」と「磁性」は,コンピュータがヒトの行為の意図を予測したかのようにポインタの動きを画面に描写し,「データのオブジェクトに触れている」としか言えない錯覚をつくりだす.ここでは,ポインタという映像のミニマルセルフを動かしているのが,ヒトの意図なのか,コンピュータの予測なのかが曖昧になっている.iPadOSのポインタは行為遂行のために必要な意図・予測の主体を曖昧にしながら,ヒトの行為と映像とを連動させて,「画面上のオブジェクトに触れる」という錯覚をあらたな感覚として生みだすのである.
iPadOSのポインタのあたらしさ──ヒトの行為とディスプレイ上の映像との連動の歴史からの考察