🛰重力下で浮遊する微小重力表象をつくる

微小重力の宇宙にいるヒトを重力下でどう撮るか?


科研費「アウタースペース/インナースペース/インタースペース・アートの美学」研究報告会(2018年8月20日@早稲田大学先端生命医科学センター)
水野勝仁:甲南女子大学文学部メディア表現学科
 

ライトボックスとロボットアームでコンピュータ・グラフィックスを物理世界に引っ張りだす

 
 

微小重力のイリュージョン

  • CuarónとWebberは重力を感じない状態をシミュレートする独自のアプローチをとった.伝統的なワイヤリグを使って俳優をセットで動かす代わりに,彼らは俳優の周りの世界の動かすことによって無重力 [zero-gravity]のイリュージョンをつくりだした./ これは,照明,LEDの背景,俳優の演技をフレーム単位で正確なカメラの位置と同期させることによってのみ可能になる.

  • 研究開発を重ねたのち,キュアロンは俳優を囲むたくさんのLEDスクリーンにリアルタイムでプリビズの環境を映し出す特殊なライティング装置を使って演出を行い,ブロックとクルーニーの顔をロボット制御されたカメラで撮影した.p.10
 
 

ライトボックス

  • 微小重力表象で重力下の物理世界を照らす
  • ルベツキはこう説明する.「とても複雑な照明の問題を解決しなければならないことがプリビズの間に明らかになったんだ.コンピューター上でキャラクターたちの顔に照明をどう当てるかをいったん決めたあとで,実写とアニメーションを完璧に合成するためには,両方の照明をピッタリ合わせないとうまくいかない.速く動き,瞬間的に色を変えられる照明が必要だったんだ」

  • ライトボックスの内部は196枚のパネルでできており,パネル1枚のサイズは60センチ四方で,4,096個のLED電球がはめ込まれ,必要に応じてどんな光や色でも投射でき,どんな速さでもそれを変更することが可能になった./ ウェバーはこう説明する.「ライトボックスのすばらしい点は,ほかの方法では物理的な不可能な形で照明の調整ができるようになっただけでなく,色と質感の両方に微妙な変化をつけることができ,照明自体にものすごい複雑さを加えることを可能にしてくれたことだ」
 

ロボットアーム

  • 物理世界での自在のカメラワーク
  • 正確に動きつづるロボットアームの動きは,コンピューター・グラフィクス世界を自在に動くヴァーチャルカメラを物理世界で実現したものに他ならない.なぜなら,ゼログラビティの撮影に使われたロボットアームを提供した「Bot&Dollyの創業者たちは,コンピュータ上できることはほぼすべて終わったと感じ,映画制作者を現実の世界に戻す時が来たと考えていた(Bot & Dolly - a small company with BIG Robots - Dedece Blog)」からである.コンピューター・グラフィクス空間でヴァーチャルカメラために描かれた軌跡をそのままロボットアームに反映させて,物理世界での自在のカメラワークをつくりあげた.
 

コンピュータ・グラフィックスを物理世界に引っ張りだす

  • コンピュータ・グラフィックス=重力があらかじめ与えられていない映像
  • これを落下と呼べるかどうか疑問なのは,コンピュータをイメージの生成装置として考えた場合の大きな特徴が,ここに見え隠れしているからである.これまでのカメラのように,レンズという光学的な装置を通して作り出されるイメージは,基本的に被写体を必要としていて,被写体は現実の時間に拘束されている.時間とともに老化し,重力に束縛された物質が被写体となるのだが,これまで唯一この拘束から逃れられたのは,光そのものが被写体である場合だけでだった.あるいはビデオの特殊装置のように電子的に光に変わる信号を使えば,それもまた重力から自由になるための方法として利用することは可能だろう.けれども,コンピュータ・グラフィックスによって作られるイメージには,決定的に異なる特徴がある.三次元モデルを使ったシンボリックな操作によって作り出されるイメージには,重力があらかじめ与えられていないのである.しかし,最新のコンピュータ・グラフィックスを用いた表現の現場では,まさにこの重力との闘いが起こっている.どのような方法で表現されば,人物や動物や植物が現実の空間にいるように見えるのかを知るために,人為的な演出を行ったり,物理的なシミュレーションを付与したりすることになるのだ.ときに,重力の強調を行ったほうが人間にとってはリアリスティックに見えるので,重力の物理的シミュレーションは重要である.しかし,そうであったとしても,コンピュータが扱うのは数字であって,果たして記号が重力をもつ事例などが他にあるだろうか.こうした背景のもとでこのフラッシュをあらためて見ると,これがコンピュータによる「Non Optical」なイメージを代表しているように見えるのである.非常に単純な事例なのだが,映画に使われる最新のCGとはまったく正反対のイメージ生成なのである.pp.162-163

  • そう,重力の問題は,イメージ生成の問題と非常に密接な関係がある.特に,光学的な手法で作られてきたこれまでの映像と,コンピュータによって生成される映像のあいだには,大きな隔たりがあるのだが,一般的にはその隔たりを打ち消すような方向に作品制作が向かっている.しかし,もしここに新しい現実感を生み出す可能性があるのであれば,寧ろその隔たりを際立たせる方向にこそ,表現者は向かうべきではないだろうか.p.167

  • ゼログラビティの制作チームは「重力下の物理世界でいかにして微小重力表象をつくりあげるか」をコンピュータを経由して実現しようとしている.その制作方針はプリビスとして制作した微小重力表象としてのコンピュータ・グラフフィックスと,その微小重力世界のカメラである「ヴァーチャルカメラ」を物理世界に引っ張り出してきて,重力下のヒトを撮影するものというものである.それはつまり,コンピュータ・グラフィックスを重力下の物理世界にできるだけそのままのかたちで持ってくる環境をつくり,光学的な手法で撮影することである.そして,光学的に撮影したものを再び,コンピュータ・グラフィックスの微小重力表象に戻し,重力と微小重力とを重ね合わせた「重力下のヒトが浮遊する微小重力表象」をつくることになる.
 

微小重力表象が放つ光を顔に転写する

 
 
  • 宇宙船の中のシーンでは,俳優の全身を撮影することにして,それ以外はCGにしました.原則として,肌が見えるときは本物で,それ以外はすべてCGで作ることにしたのです.ただし,肌が見えても,それがCGの場合もあります.

  • クルーニーとブロックは宇宙を舞台とするシーンを,コスチューム・デザイナーのジェイニー・ティーマイムが製作した部分的な宇宙服や代用品のヘルメット装置を着用して演じ,それによって彼らの顔には適切なライトの反射や影のエフェクトが生じた.これらのショットは,多くの場合,カメラを上下逆さにして撮影された.p.13