🕋インターフェイス➡️サーフェイス➡️プリミティブなモノ
水野勝仁 甲南女子大学文学部メディア表現学科准教授
 
 

行為の最小化とアルゴリズムへの移譲

コンピュータとともにあるヒトの行為,特に手が可能にする行為の複雑さは排除された.なぜなら,ヒトを回路内のスイッチと同じシンプルにオンオフを行う存在にする必要があったからである.ヒトはコンピュータとともに構成する回路でオンオフし続けるスイッチの一つとなり,ヒトが持つ行為の複雑さはアルゴリズムに委譲されていった.
 
 

デスクトップメタファー

デスクトップメタファーは,マウスを操作している際にコンピュータに入り込んだ身体経験を有効にまとめあげる視覚的表現であり,ここでは物理世界に基づくヒトの身体感覚とコンピュータの論理世界とがスムーズに重ね合わせられている.
 

2つの身体:生物としての身体と知覚原理としての身体

  • 私たちの身体の境界は,生物として手足を持つ人型としての骨格と皮膚までかもしれない.しかし,「生物としての身体」と「知覚原理としての身体」はおそらく少し分けて考えるべきである.そして後者はかなり柔軟にできており,帰属を通じて身体は「拡張可能」と言えるのだ.(p.125)


  • 知覚原理としての身体
  • ミニマルな身体へ変容
  • 行為の最小化
  • 計算可能な行為
  • スイッチをオンオフするのみの身体
 
 

インタラクションからリフレクション(反射)へ

iPhoneでは何をタッチしても,ガラスに触れているにすぎない.ヒトがマウスとカーソルとで培ってきたアルゴリズムに行為を委譲する感覚はゼロになるわけではないけれど,別のかたちになっていく.それは身体と物理世界との関係,物理世界に置かれたオブジェクト同士の関係に近くなる.ヒトは知らないうちにカーソルという別の身体を失い,ディスプレイのXYグリッドを探索できなくなり,単にガラスに触れることのみが許されるようになった.
 
 
ヒトもコンピュータもオブジェクトであるならば,そして,そのあいだに共通のインターフェイスがないのであれば,個別のサーフェイスを通じて,行為を反射し合っているのみと考えたほうがいいのではないだろうか.
 

 
ディスプレイがサーフェイスとなり,行為を反射と屈折と重ね合わせていくには,最小化した行為が最適であった.光の反射率と屈折率と同様に,計算可能になるからである.ボタンを押すという最小化された行為だけではなく,タッチパネルではジェスチャーも入ってきているが,結局はサーフェイスの一部に触れている部分をいかに計算するかにかかっている.サーフェイスでヒトが触れている部分から行為を数値化していく.ヒトの行為は屈折を伴いながらディスプレイのサーフェイスを透過していき,コンピュータのソフトウェアがつくるもう一つの底面で反射し,画像として表示される.その際に,屈折した行為の結果としての画像とディスプレイのサーフェイスで反射するヒトの行為とが重なり合って,あたらしい行為とその意味が生まれていく.ヒトとコンピュータとが持つ互いのサーフェイスのあいだで起きる行為の反射と屈折のなかで,最小化された行為はハードウェアとソフトウェアのあいだで複数化し,重ね合わされていくのである.

私たちはヒトとコンピュータとのあいだでのインタラクションではなく,物理世界に遍在するハードウェアとソフトウェアという二層構造が表裏一体化したサーフェスで乱反射する光を整えるように「行為のリフレクション(反射)」を設計しなければならない.
 
 
 

「厚みのあるピクセル」を「モノではないが,モノでないわけでもない」状態にする環境

  • 特筆すべき点は徹底した意味の付与であり,決定的なのが画面を構成するピクセルへの考え方である.マテリアルデザインでは,ピクセルを厚みのある物理的な存在(マテリアル)と解釈する.厚みを持ったピクセルは変形可能なカード,あるいは,模様が自在に変わるインクとして扱われる.前後の重なりに応じて影が発生し,アニメーション時には質量を持ったものとして加減速しながら移動する.つまりビジュアル上はフラットデザインであるが,概念や挙動としては物理世界の拡張シミュレーションなのだ.画像がフラットなのは,ドロップシャドーをクリック領域や階層構造に集中させるためにすぎない.iOS7は抽象化のためにスキューモーフィズムを捨て去った.だがマテリアルデザインでは,視覚的にこそ抽象化したものの,動きや挙動のルールにおいて,逆に強くスキューモーフィズムを彷彿とさせる.「厚さのあるピクセル」は現実には存在しないマテリアルである.だがマテリアルデザインは,「厚さのあるピクセル」が現実にあった場合にどのように挙動するかをシミュレートしたデザインなのである.

  • 深津貴之「マテリアルデザインとその可能性」